出張期間:平成14年3月19日 〜 平成14年3月21日出 張 先:宇都宮大学工学部技術部・群馬大学桐生地区技術部
宇都宮大学工学部における「ものづくり教育」に関するセンター構想の現状とそれへの技術 職員の取り組みを調査するとともに,技術部の現状等について意見交換した.群馬大学桐生地区 技術部については,技術部の現状ならびに今後の問題等について意見交換した.
宇都宮大学には陽東キャンパスと峰キャンパスがあり,工学部は機器分析センターや総合情報 処理センター,地域共同研究センター,SVBL(サテライト・ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)とともに陽東キャンパス内にある. 今回訪問した陽東キャンパスは,広くゆったりとして,手入れが行き届いている感じであった. 正門に面した通りの両側には,実に見事な桜並木が続いており,桜の季節は特 に美しいとのことであった.宇都宮大学工学部技術部は6技術班の29名からなり,技術長2名, 先任技術専門職員2名,技術班長6名,以下技術主任,技術職員から構成されている.
我が国の製造業の高い国際競争力を支えるものづくり基盤技術の衰退が懸念され,産官学をあ げて"ものづくり"に向けた基盤技術の振興や環境づくりに取り組んでいる.大学においても工学 部を中心として,"ものづくり"のための教育を見直す動きが始まっている.愛媛大学では,実体 験型「科学技術実験・実習センター(仮称)」構想が掲げられ,それに先立って工学部では,自然 現象の理解やものづくり教育の一環としての体験型授業「基礎科学実験」が実施され,多くの技 術職員がそれに関わっている.
宇都宮大学では,工学部を対象とした「ものづくり教育」に関するセンター構想がなされてい ると聞き,技術職員がそれにどのように関わり,取り組んでいるのかということや技術部の現状 について,主に技術長と先任技術専門職員の方々からお話を伺った.宇都宮大学におけるセン ター構想は,三部門から構成され,センター職員としては現在の機械工場係の5名が想定されて いるとのことであった.
宇都宮大学工学部ではこの構想に沿って,平成14年度後期から授業科目「創成工学実践」 (1年次生・半期で完結・2単位)を興し,工学部の全5学科で実施される予定である.この授業 は,1年生約440人を100グループに分け,週2日午後に実施する.よって1日に50グループの授 業を教官と技官が分担する.この授業は,「自分で物を考え,作る」実践的,体験的 授業で,その基本方針は,自ら問題を発見して自分の解を見い出し,それを評価し発表できるよ うにすること,受講テーマは全学科共通で基本的に選択制とすることにより幅広い分野について の体験・知識の習得を実現させること,また教官や技術職員,TAの学生への指導は極力口は出さ ない,手は出さない形で行うことなどである.この授業科目「創成工学実践」実施に先立って, 平成13年12月から平成14年2月にかけて,機械システム工学科で試行的に「ものづくりコンテス ト競技会」が学部1年生の3チーム(9名)によって行われた.その結果,学生の評判は良かっ たこと,担当した技術職員にとっても面白かったとの評価が得られたが,その反面これが本格的 に実施されると大変であるとの印象を受けたとのことであった.
その他,技術部の組織や運営方法,技術職員の研修や業務形態などについて意見交換した. また,技術報告集が近々発刊されるとのことであったので,送付のお願いを致しておいたとこ ろ,4月早々に「技術報告集第1号」が届けられ,当方の技術部の各技術班に回覧した.
群馬大学桐生地区技術部は,工学部,研究推進支援センター,機器分析センター及び総合情報 処理センターの49名の技術職員からなり,「基礎技術系」,「応用技術系」,「計測技術系」の三つの 系に分かれている.それぞれの系に技術長,副技術長に相当する先任技術専門職員がおかれ,そ の下に6名の技術班長,14名の技術主任,以下技術職員となっている.
技術長の他,先任技術専門職員,技術班長を含めた多数の方々と一堂に会し,我々の技術部の 現状について先ず説明した後,率直な意見交換を行った.
群馬大学では平成14年度から事務組織一元化が行われるので,それに伴い技術部の組織を改め ることになり,技術職員はこれまでの講座の研究室所属から技術部所属に移行する予定である. また,教務職員も技術部の組織に含めることも検討されている.この動きに向けて,「技術部運 営委員会」が設置されることとなったが,委員会の構成員をどのようにするのか現在検討中で, そのために他大学の技術部組織や運営方法について積極的に資料収集を行っているとのことで あった.
桐生地区技術部のこれまでの活動の一つとして実施されている各学科での勉強会や北関東ブ ロック(6大学)での研修状況,他大学への技術交流を含めた技術部調査などについて,また今 後の活動として技術発表会の実施や技術報告集の発刊予定についてお話を伺った.
群馬大学桐生地区には,研究推進支援センター(1977年に機械工場と印刷工場が合体して発 足)があり,マシンショップとプリントショップの2部門で計4名の技術職員が業務にあたって いる.プリントショップは他大学にはあまりみられない部門で,オフセット印刷機をはじめ製 版,製本,裁断機等を備え,2名の技術職員で授業に使用するテキストや冊子,種々の報告書等 の全学的な依頼業務をこなしており,興味深く拝見した.マシンショップでは,技術職員2名で 依頼品加工と技術指導にあたっており,特に依頼を受けた担当者は時間をかけて要求事項をいろ いろ聞き,必要な構成や設計図・製作図の書き方まで相談にのり,学生(依頼者)の要求に応え ることによって,業務成績には全く現れないものづくりを基本とする技術者教育に大いに貢献し ている.
意見交換の場で,技術職員が技術部所属として講座の研究室から離れた場合,技術専門職制度 との関わりの中で,スキルアップを図るためのシステム作りが重要となってくることの認識の一 致をみた.また桐生地区技術部が,多くの他大学における現状や問題点についての情報収集に大 いなる努力を傾けられていることに,大変敬服した.同時に,多くの大学において処遇改善のた めの組織化から実質的な技術部としての組織に向けて,技術職員の配置や職務遂行形態の在り方 などが積極的に検討されていることを感じた.
謝辞: 終わりに,宇都宮大学工学部技術部ならびに群馬大学桐生地区技術部の技術長はじめ多く の方々にお世話頂きました.深く感謝致します.